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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)66号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 本願発明の要旨が審決認定のとおりであることは当事者間に争いがなく、各引用例の記載内容についての審決の認定についても条件付(請求の原因(四)参照)ではあるが原告らの争わないところである。

(二) そこでまず重合体と安定剤の関係について考察する。

1 成立に争いのない甲第六ないし第一一号証と弁論の全趣旨をあわせれば、重合体に安定剤を加え熱、光、酸素などによる劣化を防止する技術において安定剤には多種多様のものがあり、また重合体の種類も多いことが認められる。

2 ところで、成立に争いのない甲第七号証には、プラスチツクの劣化防止剤として、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤(以下広い意味で「安定剤」という。)が主として用いられるが、プラスチツクはその内部構造により劣化機構が異なるためプラスチツクの種類により劣化防止剤が異なる旨の記載(第一〇三頁左欄7―8行)、大多数のプラスチツクの劣化機構が理論化されていないため、劣化防止剤の作用はまつたくわからぬといつても過言ではなく、したがつて劣化防止剤選定は理論的に考えられるものではなく、経験的に選択せねばならないのが現状である旨の記載(第一〇四頁右欄17~21行)が認められ、また成立に争いのない甲第九号証には、現在のところすべての酸化要因に効果的な単一の酸化防止剤はみあたらず、しかもプラスチツクの種類により使用される酸化防止剤も異なる旨の記載(第二二頁右欄5~7行)が認められるから、これらの記載と弁論の全趣旨をあわせれば、一般に重合体の種類が異なればそれに使用される安定剤の種類も異なり、ある化合物もしくは化合物の混合物がある種の重合体の安定化に役立つことが判明しても、その化合物もしくは化合物の混合物がその重合体とは別の種類の重合体の安定化に役立つか否かを予測することは一般に困難であると考えられる。

前記甲第九号証にはポリプロピレンの安定剤としてあげられている2、6―ジ―第3ブチル―4―メチルフエノール、2、2メチレンビス(4―メチル―6―第3ブチルフエノール)、4、4´―チオビス(3―メチル―6―第3ブチルフエノール)がポリエチレン用の安定剤としてもあげられていることが認められるけれども、ポリプロピレンとポリエチレンは、いずれもポリオレフインに属するうえ、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、ポリエチレンに使用する普通の安定剤の多数のものにはポリプロピレンの劣化防止作用がないことが認められるから、右のように甲第九号証中にポリエチレンの酸化防止にもポリプロピレンの酸化防止にも役立つ化合物が三個あげられているからといつて、重合体の種類と安定剤の種類の関係についての前記認定が左右されるものではない。

なお、被告は、本願発明において明細書の特許請求の範囲に記載された化合物のすべてについてその安定化効果を発明の詳細な説明において示していないにもかかわらず、膨大な数の化合物を安定剤として特許請求の範囲に記載していること自体、原告ら自身が安定剤化合物の予測可能性を認めていることにほかならないと主張しているけれども、成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、本願発明において安定剤添加の対象となる重合体は一種類(ポリエステルポリエーテルブロツク共重合体)のみであり、安定剤は右一種類の重合体に対するものであることが認められるから、多数の安定剤を特許請求の範囲に記載したからといつて異なる重合体間で安定化効果を予測できることを示すものでないことは多言を要しない。

(三) そこで、本願発明における重合体と第一引用例の重合体の異同等について検討する。

1 まず、本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体と第一引用例記載の重合体を同一視しうるかどうかについて考察する。

(1) 前記甲第二号証によれば、本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体とは、ポリエステルをハードセグメント、ポリエーテルをソフトセグメントとし、両者がくり返し並んでいることによりゴム状弾性を有するブロツク共重合体であり(第九欄第3~7行)、ソフトセグメントを形成するポリエーテルは、分子量三五〇~六〇〇〇程度の脂肪族ポリエーテルである(第九欄第24~26行)ことが認められる。

(2) これに対し、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例における重合体はポリエステルであつて、同引用例にはポリエステルの種類につきその代表例として、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とグリコールから誘導される樹脂、芳香族ジカルボン酸のコポリエステル、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸のコポリエステル、二種以上のグリコールと一種以上の二塩基酸とのコポリエステルおよび二種以上の二塩基酸と一種以上のグリコールとのコポリエステルが挙げられ(第三頁左欄下から第14行~右欄第6行、訳文第一〇頁第11行~第一一頁第9行)、このポリエステルにはブロツクタイプのコポリエステルも含まれる旨(第五頁左欄下から第8~7行、訳文第一八頁下から第4~3行)、グリコールとしてジエチレングリコールも使用される旨(第三頁右欄第19~20行、訳文一二頁第1行)がそれぞれ記載されていることが認められるが、ポリエーテルを一成分とする重合体については何も記載がないことが認められる。

前記ジエチレングリコールは、分子中に一個のエーテル結合をもつグリコールであつてポリエーテルではないから、ジエチレングリコールをグリコール成分とするポリエステル重合体は単にエステル結合(ポリエステルブロツクではない)とエーテル結合(ポリエーテルブロツクではない)が交互に配列された重合体に過ぎない。

また、前記甲第三号証によれば、第一引用例におけるポリエステルは「ポリエステル樹脂」と表現されていることが認められるが、このことからすれば、第一引用例のポリエステルは普通のプラスチツク成形品に用いられる範囲の重合体を意味し、本願発明における重合体のようにゴム状弾性を有しないと解される。

(3) したがつて、本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体と第一引用例のポリエステル重合体を同一視することはできないから、両者を同一視した審決の判断は誤まりである。

2 そうすると、特段の事由がない限り、本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体と第一引用例のポリエステル重合体の間には安定剤の共通性があるとはいえない。

被告は、一般的なポリエステル重合体と本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体の間に安定剤の共通性があることが公知であつた旨主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はなく、また両者の間に安定剤の予測可能性があることを認めるに足る証拠もない。

(四) 右のように、本願発明において安定剤添加の対象となる重合体と第一引用例において安定剤添加の対象となる重合体を同一とはいえないうえ、安定剤としてフエノール系化合物と併用される化合物が、本願発明においてはイオウ系化合物であり、第一引用例のものにあつてはリン系化合物であつて相違していることは当事者間に争いがないから、第一引用例のポリエステル重合体の安定剤としてフエノール系化合物と併用される化合物であるリン系化合物が本願発明のポリエステルポリエーテルブロツク共重合体に対して安定化効果を奏するかどうかは予測できないといわなければならない。まして、第二引用例の重合体はポリプロピレンである(本願発明におけるポリエステルポリエーテルブロツク共重合体でも第一引用例のポリエステル重合体でもない)ことも当事者間に争いがないから、第二引用例において、このポリプロピレンに対する安定剤としてヒンダートフエノール系化合物と併用される化合物につき、リン系のものと並んでイオウ系のものが挙げられているからといつて、イオウ系化合物を第一引用例のリン系化合物に代えることにより本願発明のポリエステルポリエーテルブロツク共重体に対しどのような安定化効果が生ずるかは予測の限りでないといわざるをえない。なお、本願の公告決定時の明細書には併用化合物としてイオウ系のもののほか、リン系のものが記載されていたこと(甲第二号証参照)も、右判断を左右しない。

(五) そうすると、本願発明は第一引用例に示された併用化合物であるリン系化合物に代え、第二引用例のイオウ系化合物を用いたにすぎないもので第一引用例、第二引用例の記載から当業者が容易になしえたものとはいえないから、審決は違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、本訴請求を認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ポリエステルポリエーテルブロツク共重合体に対し、

一般式(A)

<省略>……………(A)

で示される化合物の一種以上、および一般式(B)

(R3(-S-R4)p……………(B)

で示される化合物の一種以上を配合したことを特徴とするポリエステルポリエーテルブロツク共重合体組成物、ただし上式中、Rは―COO―,

<省略>

の一種以上を分子鎖中もしくは分子末端にまたは置換基として有する炭素数一~一八の炭化水素基、または―S―

<省略>

のいずれかであり、R´は水酸基で置換されていてもよい炭素数一~一八の炭化水素基を示し、R1・R2は水素原子または炭素数一~一八のアルキル基でそれぞれ同一であつても異なつていてもよい、R3は炭素数一~一八の炭化水素、または分子鎖中に―COO―,―CONH―結合の何れかを有する炭素数二~二三の炭化水素基を示し、R4は水素原子またはR3と同様の炭化水素基であり、R3と同一であつてもよい。ただしR3の炭素数とR4の炭素数の合計は七以上でなければならない。lは〇~二の整数、mは一~四の整数、l+mはRの全結合価に等しい。またPは一~四の整数である。

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